サンパウロ(ブラジル)にて:土方巽セミナー&展覧会レポート

サンパウロ(ブラジル)の SESC Consolacao で、土方アーカイヴ協力のセミナーと展覧会が開催されました(展覧会は開催中)。
展示構成、セミナーでの講演のためにブラジルに渡っていた担当者からのレポートをお届けします。

A REVOLTA DA CARNE: Dialogos Brasil-Japan

サンパウロを中心に活発な文化活動を行っている民間の文化団体 SESC(セスキ)の主催で、土方巽をめぐるセミナーと展覧会が同市の SESC Consolacao で行われた。


[展示会場(上階)とシンポジウム会場の劇場(地下)][展示会場入り口案内板]

土方巽アーカイヴも、その実施にあたって協力し、森下隆が現地に赴き、展示に立会い、またセミナーにスピーカーとして参加した。
ブラジルでは舞踏に対する関心は高く、とりわけ大野一雄さんは神様のごとく尊敬され、昨年もすばらしい「大野一雄展」が開催されている。その舞踏への関心が、先駆者としての土方巽にも向けられ始めている。
「“A REVOLTA DA CARNE” 肉体の反乱」と名付けられた今回の催しは、1968年の公演<肉体の叛乱>をテーマにしたというのではなく、土方巽という存在とその身体思想に接近しようとする試みであった。

展示は、大野一雄展の会場設計を行った Hideki Matsuka さんの構成によるものであった。限られた時間と予算の中で、彼のユニークなアイデアが生かされ、スタッフの精力的な作業で8月5日のオープニングに離れ業のように間に合った。
オープニングには、思わぬ多くの人が集って賑わった。大野一雄さんを始め、これまで日本の舞踏家たちの活動によって、ブラジルに確実に舞踏がその根を下ろしていることの証左である。


[展覧会オープニング風景][展示会場]

同じく「A Revolta da Carne—Dialogos Brasil-Japon」と題するセミナーは、8月5日・6日の2日間にわたって実施された。大野一雄さんがブラジルで初めて踊り、満員の観客の喝采を浴びた劇場が、その会場であった。
初日の5日は、まずセミナーの企画者である Christine Greiner さんの挨拶と企画趣旨の発表につづいて、Hideki Matsuka さんによって、日本を理解するためのガイドとなるゴールデン街を知る映像が紹介された。
セミナーではまず、宇野邦一さんが「土方、アルトー、寺山」をめぐって、それぞれの関わりと思想と活動を横断的に捉えるスピーチを行った。ついで、森下が土方巽
イメージを紹介しながら、土方舞踏のマトリクスを三つの場をとおして意義づけるスピーチを行い、「舞踏譜の舞踏」の一部を上映して土方の達成について語った。
さらに、Celso Favareto さんがブラジルの前衛美術家Helio Oiticicaについて、その仕事と歴史的意義を紹介された。
その後、Greiner さんと会場の参加者の質問に答えつつシンポジウムが行われた。数多くの質問票が回収され、ぎっしり書き込まれた印象的なシートもあり、関心の高さと熱心な姿勢に感心するばかり。聴衆は、130~140名というところ。
2日目の6日は、フランスの現代思想が日本とブラジルの身体思想に与えた影響をめぐってセミナーが行われた。三島由紀夫田中泯について言及する発表もあり、思想・文学からダンスまで幅広い視野で討議された。
この日も、熱心な聴衆の参加で、セミナー修了後も人の輪がいくつも作られていた。

展示はこの後、1ヵ月近くにわたり続けられる。私たちも望み、ブラジルの人たちも期待した舞踏公演は、残念ながら予算不足で実施できなかったが、土方巽の舞台記録映像の上映が行われることになっている。


[展示会場][シンポジウム会場]

初めて本格的な土方の紹介で、ブラジルでの舞踏理解も広がることであろう。すでに、来年は時間と予算をかけて、『鎌鼬』を中心に細江英公さんの写真を紹介する企画が挙がっている。私も展覧会予定地を見てきた。劇場、美術館、図書館などを備えたSESCの大きな文化施設がそれであった。工場跡地を著名な建築家が改修したすばらしい施設で、期待が膨らむばかりであった。(記=森下)